「走る旅」から、大会をともにつくるパートナーへ。〜近畿日本ツーリストと東京マラソンがともにつくってきた「走る体験」〜

「東京マラソンをきっかけに、人生が動き出した。」をテーマにお届けするインタビューリレー 3rd Run。今回は2012年より東京マラソンへの協賛を開始し、海外から東京マラソンに参加するランナーのツアーやサポートをはじめ、長年にわたり大会とともに歩んできた近畿日本ツーリストです。

約15年にわたる歩みの中で、近畿日本ツーリストと東京マラソンの関係は、単なる「協賛」という枠を超え、大会とともに新しい体験や価値をつくるパートナーシップへと発展していきました。

東京マラソンが20回記念大会を迎える今、これまでの歩みを振り返りながら、スポーツと旅が生み出す可能性、東京マラソンが人や企業にもたらしてきたもの、そしてこれからの東京マラソンと近畿日本ツーリストがともにつくっていく未来について、株式会社近畿日本ツーリストブループラネットの栗山千三代表取締役社長にお話を伺いました。

2012年、東京マラソンと始まった挑戦

――近畿日本ツーリストが東京マラソンのパートナーとなった経緯、背景を教えてください。

近畿日本ツーリストは、2012大会から東京マラソンに協賛しています。当時、東京マラソン財団は、東京マラソンを世界的に認知される国際大会へと成長させていくため、より多くの海外ランナーに参加してもらいたいという考えを持っていました。

一方、旅行業界にとって大きな転機となったのが、2011年の東日本大震災です。それまで増えていた訪日外国人が大きく減少し、私たちも海外からのお客さまをどうすれば再び日本にお迎えできるのかを考えていました。

そこで私たちが注目したのが、明確な目的を持って日本を訪れる「目的特化型」の旅行です。「東京マラソンを走る」という強い目的があれば、再び日本を訪れてもらうきっかけになるのではないか。東京マラソンを国際的な大会へ育てていきたいという財団の思いと、海外からもう一度日本へお客さまを呼び戻したいという私たちの思いが重なったんです。

ですから、私たちにとって2012年の東京マラソンへの参画は、単なる協賛ではありませんでした。一人でも多くの海外ランナーに東京へ来てもらい、安全・安心に開催される大会を楽しんでもらう。最初はもう、がむしゃらでしたね。

――そこから、海外ランナーを東京へ迎えるために、どのような取り組みを始めたのでしょうか。

今でこそ海外ランナーは大会全体の半数ほどを占めるようになりましたが、当時は大変なことで、現在のような状況を実現するために、私どもは強い意志を持って取り組みました。

ただ、海外からランナーを呼ぶといっても、私たちだけですぐにできるものではありませんでした 。そこで、各国でマラソンランナー向けのツアーを扱い、ランナーとのつながりを持つ海外のマラソンエージェントとのネットワークづくりから始めました。

大切にしてきたのは、一つひとつ信頼を積み重ねることです。「東京マラソンにお客さまを送り出すなら、近畿日本ツーリストに任せれば大丈夫」と思っていただける関係を築いていく。それを2012年から続けてきました。

2027年には、東京マラソンへの参画から15年を迎えます。

その間に築いてきた各国のエージェントとの信頼関係は、私たちにとって大きな財産になっています。

一生に一度の体験を、最高の思い出にするために

世界各国・地域から集まったランナーが、レース後の喜びを分かち合う「アフターランパーティー」。写真は東京マラソン2025の様子。

――東京マラソンのパートナー企業として大切にしていることを教えてください。

私たち近畿日本ツーリスト は、「黒子に徹する」ことに関してはプロだと思っています。自分たちが表舞台に立つのではなく、お客さまに安全・安心 、快適に過ごしていただき、一生忘れられないような旅にするために、舞台裏から支える。それが私たちの役割です。

東京マラソンでも同じです。主役はランナーであり、ボランティアをはじめ大会に関わる皆さんです。だからこそ、その人たちが最高の体験をしていただけるように 、私たちが舞台裏でできることがある。これは創業以来、変わらず大切にしてきた考え方です。

ただ、舞台裏にいるからといって、単に依頼された仕事をするだけではありません。パートナーとして、ともに大会をつくっていく。表からは見えないところにこそ、近畿日本ツーリストだからできる役割があると思っています。

――海外ランナーを日本にお迎えする中で、その考え方はどのように形になっているのでしょうか。

現在、私たちは東京マラソンのツアーを世界79カ国・地域で販売しています。2012年から積み重ねて、ここまで広がったことは、私たち自身にとっても大きなことです。アメリカやイギリスなどでは、東京マラソンを走るために数年先まで待っている方がいると、現地のエージェントから聞いています。それほど東京マラソンが世界のランナーにとって特別な大会になったということだと思います。

だからこそ忘れてはいけないのは、私たちにとっては毎年の東京マラソンでも、海外から来るランナーにとっては、一生に一度になるかもしれないということです。「昨年と同じようにやればいい」ということは絶対にありません。一人ひとりにとって大切な一日だからこそ、毎年、真剣勝負でお迎えしています。

アフターランパーティーも、その思いを形にしているイベントの一つです。八芳園さんにもご協力いただき、走り終えた海外ランナーの皆さんに、東京での最後まで忘れられない時間を過ごしていただきたいという思いでつくっています。

Six Star Finisherの表彰も、とても印象的です。ステージに上がったランナーを、国籍や文化の違いを超えて 、そこにいる皆さんが一緒になって称え、喜び合う。その光景を見ていると、東京マラソンという一つの体験を通じて、世界中から集まった人たちがつながっていることを実感しますね。

東京マラソンとともに育ってきた、KNTのスポーツ事業

KNTが協賛を開始した2012年から続く「東京マラソンフレンドシップラン」。世界各国・地域から東京を訪れたランナーを迎え、交流を深める場として親しまれている。写真は東京マラソン2026の様子。

――東京マラソンへの参画は、近畿日本ツーリストのスポーツ事業にとって、どのような意味を持ってきたのでしょうか。

近畿日本ツーリストは、旅行業界の中でも早くからスポーツ事業に取り組んできた会社です。かつては旅行とスポーツは別のものと考えられていましたが、1998年のサッカーワールドカップ・フランス大会や2000年のシドニーオリンピックなどを通じて、スポーツを観るために海外へ行くことに対する 大きな需要があることが見えてきました。

さらに、海外へお客さまを送り出すだけでなく、スポーツを目的に日本を訪れる人たちを迎えることにも大きな可能性がある。そう考え、2010年にスポーツ事業部を立ち上げました。

私たちは、スポーツ事業をやると決めた以上、それぞれの分野で最高峰を目指したいという思いがありました。マラソンなら、国内を代表する大会である東京マラソン一択と考え、2012年の大会から協賛を始めました。

そこから東京マラソンとともに歩みながら、海外ランナーを日本へ迎える仕組みや、スポーツホスピタリティの経験を積み重ねてきました。その後、オリンピック・パラリンピックをはじめ、さまざまな世界規模のスポーツイベントにも関わってきましたが、私たちがスポーツという分野で成長していく中で、東京マラソンは大切な存在であり続けています。

ですから、近畿日本ツーリストは「スポーツという切り口で育ってきた会社」と言えると思いますし、その歩みの中には、常に東京マラソンがあったと思っています。


東京マラソンを、世界中のランナーが憧れる大会へ

――東京マラソンに携わる中で、栗山社長ご自身にとって「人生が動き出した」と感じる瞬間はありましたか?

私自身の考え方が大きく変わったきっかけは、2019年11月にニューヨークシティマラソンを視察したことです。東京マラソン財団がパートナー企業の代表者とともに現地を訪れる機会があり、私も参加させていただきました。

私はそれまでアメリカを含む、海外に10年以上駐在した経験があったので、ニューヨークという街の魅力はよく知っているつもりでした。でも、マラソンの日に見るニューヨークは、それまで知っていた街とは違って見えたんです。

世界中から集まるランナーを街全体で迎える雰囲気があり、警察官も治安維持や誘導だけでなく、ランナーに声を掛けている。さらに、その大会を安全・安心に開催するために、ボランティアや大会関係者の皆さんが前日から街中で準備をしている。その一つひとつを目の当たりにして、「こんなに素晴らしい大会を、この街全体でつくっているんだ」と感じました。「これは走りたくなるよな」と思いましたね。

――その体験によって、東京マラソンに対する考え方も変わったのでしょうか。

変わりましたね。2019年当時は、ニューヨークシティマラソンを見て「勉強させてもらおう」「東京マラソンもニューヨークやロンドンのような大会になれるよう、お手伝いしたい」と思っていました。

でも、今は違います。ニューヨークやロンドンに追いつくことを目指すのではなく、東京マラソンそのものが、世界中のランナーにとって憧れの大会になる。そのために自分たちに何ができるのかを考えるようになりました。

例えば、海外を訪れた時、その国で最初に接する人の印象が、その旅や、その国全体の印象につながることがあります。東京マラソンも同じだと思っています。世界中から東京へやって来るランナーを私たちがどう迎えるか。その一つひとつが、東京マラソンだけでなく、東京や日本の印象にもつながっていく。

だからこそ、世界の大会に合わせるのではなく、ランナーをお迎えするサービスやホスピタリティを、世界最上級にしていきたい。それが、近畿日本ツーリストとして目指していることです。

いつか東京マラソンが、世界中のランナーにとって「どうしても走りたい」と思われる大会になった時、「2012年から、その大会を舞台裏で支えてきたのが近畿日本ツーリストだ」と言える存在でありたいですね。

2019年のニューヨークで得た気づきから、私たちの目標は「世界に追いつく」から「東京から世界最高の体験をつくる」へと変わったのだと思います。

東京マラソンは、ホスピタリティを育てる場所

KNTが協賛を開始した2012年から続く「東京マラソンフレンドシップラン」。海外から来日するランナーへのおもてなしと、国内外のランナー同士の交流の場として、現在も多くのランナーに親しまれている。写真は東京マラソン2026の様子。

――世界最上級のホスピタリティを目指す中で、2026大会でも特に印象に残る出来事があったそうですね。

今年3月の大会では、中東情勢の影響で一部の航空便が欠航するなど、海外ランナーの帰国にも影響が出ました。私たちは延泊やその後の移動をどうするか、すぐに対応しなければならない状況でした。

ところが、ランナーの皆さんはとても落ち着いていて、「まずは今日のレースを楽しんで、それから考えよう」と言うんです。私たちの方が心配していたくらいでした(笑)。

その姿を見て、改めて「東京マラソンを走る」という目的が、海外から来るランナーにとってどれほど大きなものなのかを実感しました。

そして、もう一つ印象に残ったのが、各国のエージェントの対応です。ランナーにとって東京マラソンの一日が一生の思い出になるように、予期せぬ状況の中でも、それぞれが自分たちのお客さまのために全力で動いていました。

私たちもプロとして仕事をしているという自負があります。でも、長年一緒に仕事をしてきた各国のエージェントも同じ思いでランナーを支えている。その姿を目の当たりにして、私たち自身も改めて学ばせてもらいました。

――東京マラソンに携わることは、近畿日本ツーリストの社員やスタッフにとっても成長につながっているのでしょうか。

そう思います。東京マラソンには、仕事冥利に尽きるような瞬間がたくさんあります。世界中から集まったランナーが、国籍や人種、タイムに関係なくお互いを称え合う。その姿を間近で見ることができるのも、この仕事に携わる大きな価値の一つです。

そして私たちは、東京マラソンを単に業務を遂行する場ではなく、関わる皆さんとともに大会をつくる機会だと考えています。

だから社員だけでなく、当日働いていただく通訳や案内ガイドの皆さんにも、「なぜこの仕事をするのか」「東京マラソンに関わることにはどんな意味があるのか」を共有することを大切にしています。ただ仕事をお願いして、終わったらそれで終わりではない。大会をつくる一員として、同じ思いを持って関わってもらいたいのです。

東京マラソンという大きな舞台で、世界中から訪れる人たちを迎え、さまざまな立場の人たちと一緒に一つの大会をつくる。その経験そのものが、スポーツホスピタリティやトラベルホスピタリティを担う人を育てているのだと思います。

私たちにとって東京マラソンは、サービスを提供するだけの場所ではなく、ホスピタリティを学び、育てていく場所にもなっているんです。

世界と東京をつないでいきたい

――東京マラソン2027は20回記念大会を迎えます。近畿日本ツーリストとして、どのような大会にしていきたいと考えていますか?


2027年は、私たちが東京マラソンに関わり始めてから15年という節目でもあります。20回記念大会では、これまでで最多となる80カ国以上の国・地域で東京マラソンのツアーを販売する計画を立てています。

ただ、数を増やすことだけが目的ではありません。これまで東京マラソンに参加したことのない国や地域の方々、さらには、これまでマラソンとの接点があまりなかった方々にも、この大会の魅力を届けていきたいと思っています。

また、カーボンオフセットに賛同いただけるランナーに向けた取り組みなど、20回記念大会だからこそできる新しいチャレンジも考えています。東京マラソンをきっかけに、これまでとは違う人たちが走ることや東京を訪れることに興味を持つ。そんな新しい接点をつくっていきたいですね。

――15年間をともに歩んできたパートナーとして、これからの東京マラソンに向けてメッセージをお願いします。

これからもできるだけ長く東京マラソンのパートナーであり続け、世界と東京をつないでいきたいと思っています。

2012年、海外から再び日本へお客さまを迎えたいという思いから始まった私たちの挑戦は、東京マラソンとともに歩む中で、世界中のランナーや各国のエージェントとのつながりへと広がってきました。

これから目指したいのは、東京マラソンが世界中のランナーから「どうしても走りたい」と思われる大会になることです。そのために、世界と東京をつなぎ、一人ひとりのランナーを最高のホスピタリティで迎える。舞台裏から大会を支えながら、ともに東京マラソンをつくっていくパートナーであり続けたいと思っています。

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