インタビューリレー
東京マラソンを通じて生まれたつながりのストーリー
「人と街がつながる場所。東京マラソンと大会を支える街“浅草”のつながりのストーリー」

「東京マラソンを通じてうまれた“人と人のつながり”のストーリー」をテーマにお届けするインタビューリレー 2nd Run。
今回は東京マラソンのコースの舞台であり、東京の象徴とも言える浅草の街と東京マラソンにまつわるつながりのストーリーを紹介します。
浅草商店連合会の理事を務めている西山繁夫さん、観光客に人気の人力車事業者をまとめる浅草俥夫連絡会会長の梶原浩介さんに、2007年第1回大会当時の浅草の様子や現在までの変化と相乗効果、街とランナーとの交流、プロギングで伝えたい想い、そして東京マラソンと浅草の未来に期待することなどを伺いました。
2007年第1回大会当時は浅草から「反対」の声も

――はじめに自己紹介と、東京マラソンとの関わりを教えてください。
西山 協同組合浅草商店連合会の理事を務めている西山です。浅草商店連合会は、浅草の個店が加盟する組織で、会員商店のサポートや街の情報発信、浅草で開催するイベントを街の皆さんと協力しながら取りまとめています。
個人的な東京マラソンとの関わりとしては、2010年と2011年にランナーとして参加しました。それまで私は運動とは無縁の人間だったのですが、本当に楽しかったなという記憶しかないですね。
梶原 浅草俥夫連絡会で会長を務めている梶原です。浅草には大小合わせて20ほどの人力車事業者があり、その取りまとめを行っています。お客さまの安全確保を最優先にしながら、ガイドの勉強会や街の課題にも向き合い、街との共存共栄を目指して活動しています。
東京マラソンとは、2024年からプロギングイベントに参加したランナーの皆さんに浅草の街をご案内したり、東京マラソン関連イベントのフレンドシップラン*2で国内外のランナーをおもてなししたりといった形で関わっています。
――2007年に東京マラソンが創設され、浅草や雷門前がコースに含まれると聞いた時、どのような印象を持ちましたか?
西山 とにかくワクワク、ドキドキでした。街全体が大歓迎という雰囲気でしたね。ただ、雷門から江戸通りにUターンするコースの三角州に私の実家があったんですよ。大会当日は道路が規制されて行き来できなくなるため、当時は「魔の三角地帯」なんて呼ばれていて、私の父は絶大な反対派でした(苦笑)。商売をしていたので「客は来ないし外にも出られない」と。
ところが私が2010大会の抽選に当たり、走ることになると風向きが一変しました。もう反対できないですよね。大会当日、私が雷門に向かって走っていくと、街のみんなが応援してくれていて、あれほど反対していた父も最前列で「頑張れ」と応援してくれましたね。
――西山さんが走ったことが、賛成に変わるきっかけだったのですね。

東京マラソン2013に浅草で行われた催しの様子
西山 そうですね。2010年、2011年なんて、息子が走るからどうやって応援しようかと、随分前から父が中心になって家族総出で考えていました(笑)。今では地下道も整備され、「魔の三角地帯」も解消されたこともあり、私の出走を機に東京マラソン歓迎モードにガラッと変わりました。
梶原 素敵なお話ですね。私は2013年に東京に来たので創設当時は分かりませんが、浅草に来てから最初に体験した大きなイベントが東京マラソンでした。当時は人力車事業者が増え、「人力車ってどうなの?」という声もあった時期です。そんな中、街の方々が「この道は封鎖されるから、こうした方がいいよ」とアドバイスをくださった。その時、浅草は何かあると一気にまとまる街なんだ、その力はすごいなと感じました。そしてレース当日、当時は雷門の折返し地点で芸者衆が躍っているわけですよ。
西山 はい、踊ったり、子どもたちが演奏したり、当時から街を上げて盛り上げていました。
梶原 それを見て、「うわぁ、浅草は街の全精力を注いで大会を盛り上げるんだ」と。言ってみれば、ランナーにとってはほんの一瞬、通過するだけじゃないですか。そこに浅草の全てを注ぎ込むんだと、街のパワーに圧倒された記憶が強く残っていますね。
西山 当時は雷門前にトラックでステージを組んで催しを行っていました。今は駒形橋の手前に場所を移していますが、雷門はやはり絵になる。街全体が盛り上がっているからランナーの皆さんもテンションが上がると思います。浅草に慣れしたしんだ僕でもランナーとして浅草を走って通過した際には、なんだか普段とは別の景色を見ているようで気持ちが高揚しました。
コロナ禍の東京マラソンで深まった街の絆

フレンドシップランでは日本文化を体験するプログラムも用意している
――第1回当時と比べて、浅草の街の様子や大会の変化をどう感じていますか?
西山 コロナ禍の時期は、あまり外に出てはいけない、声を出して応援してはいけないということだったのですが、やっぱり浅草の人はテレビではなく自分の目で見たいんですよ。それは知り合いだけじゃなくて、色々な人たちが走っている姿を見たい。外に出て声を出さずに心で応援していました。「みんな元気そうだね」と生存確認ができる機会にもなった気がしています。
梶原 そうでしたね。本当は密になりすぎちゃいけない時期だったのですが、みんなが大会をきっかけに顔を合わせて安心したりしていましたね。
西山 はい、だから逆に街のみんなの絆が深まったようにも感じていました。そうしたことがありましたので、マラソンって走っても走らなくても心に響くものなんだと。世界各国から多くのランナーが来て、全然知らない人でも応援しますから、街としてはとても楽しいですよ。
梶原 東京マラソンには「応援」という独特のパワーがありますよね。
西山 ランナーの頑張っている姿から、むしろこちらの方がパワーをいただけますからね。だから、みんな目の前でマラソンを見たがりますよ。そんな街の皆さんの顔を見ていると、東京マラソンは浅草の街になくてはならないものだと思いますね。
――東京マラソンを通じた街とランナーの交流をどう見ていますか?
西山 私たち浅草商店連合会は、「東京マラソンフレンドシップラン」*1や「東京ランニングフェスタ」*2もお手伝いさせていただいておりますので、そこがまた一つの大きな楽しみになっていますね。参加者の多くが海外ランナーで、皆さん本当に楽しそうに走っている。その笑顔を毎年楽しみにしています。
梶原 笑顔で「楽しかった!」と言って帰ってくる姿を見ると、街のおもてなしが届いたのかなと嬉しくなりますよね。
西山 浅草の街が大切にしている考え方とも、とても合っていると思います。フレンドシップランは、皆さんが気軽に楽しみながら走ってくれているので、このイベントをお手伝いすることには、東京マラソンとはまた違った意義を感じています。街への浸透も感じますし、まさにランナーの皆さんとの“フレンドシップ”を実感していますね。
梶原 私たちの場合、例えば東京マラソンの数日前に人力車をご利用いただいたお客さまに「どういうご用件で浅草に来られたんですか?」とお聞きすると、「実は東京マラソンを走るんです」とおっしゃる方が結構いらっしゃいます。そして、そうした方とフレンドシップランで再会することも、これまで何度もありました。まさに“フレンドシップ”を感じる瞬間ですね。
西山 そうした東京マラソンやフレンドシップランを通じた街の賑わいや交流は、かなり生まれているんじゃないかなと感じています。
ランナー視点で見た「浅草×東京マラソン」

東京マラソン当日、浅草の街は走る人と応援する人の熱気であふれる。
――では、ランナーの立場から見た東京マラソンについてはいかがでしょうか?
西山 正直、走る前は「なんであんなに苦しい思いをしながら走るんだろう」と思っていました(笑)。でも、実際に走ってみたら、これがすごく面白かったんです。僕が走った2010大会は雨が降っていて、すごく寒かったのですが、浅草を走ると元気になるんですよね。
応援もすごくて、全浅草が味方になったような気持ちになります。当初は完走だとか、サブ4だとか目標を立てて練習していたんですが、実際に走ってみると「競走」というより「楽しい」という気持ちの方が強くなりましたね。その分、浅草を通り過ぎた途端にガクッと力が抜けてしまいましたけど(笑)。
それに、道路のど真ん中から雷門に向かって走るなんて、普通はできない体験です。特に海外ランナーの皆さんにとっては、すごく感激する瞬間じゃないでしょうか。浅草、雷門は「日本の入り口」みたいな存在ですから。
――東京マラソンを通じて、浅草の知名度が高まったと感じる瞬間などはありますか?
西山 それについては、相互作用があるなと感じています。雷門が海外でも非常に有名になった理由の一つに東京マラソンがあると思いますし、一方で東京マラソンとしても雷門は絶対に外せないモニュメントですよね。お互いに高め合ってきた関係なのではないかなと思います。
梶原 大会翌日などは、人力車をご利用いただくランナーの方も多く、完走メダルを見せていただくこともよくあります。東京マラソンを走って、翌日は観光をして、浅草の街を二度楽しんでいただいているんだなと感じますね。
西山 繰り返しになりますが、東京都内のど真ん中のメインストリートを走れて、しかも雷門の前を通れる大会は唯一無二です。ランナーの皆さんには、その雰囲気を存分に味わっていただきたいですね。浅草の街も大会と一体となって、まさに東京マラソンが掲げているスローガン通り「東京がひとつになる日。」を体現していることを感じます。ランナーはもちろん、応援する人も、浅草の街もひとつになれる。これは東京マラソンならではだと思います。
浅草寺の住職が見た東京マラソンと浅草の街

これまでランナーとして何度も東京マラソンを完走してきた浅草寺妙音院の田中昭成住職にも、東京マラソンの魅力や浅草の街の変化についてお話を伺いました。
田中住職 東京マラソンの魅力は、やっぱり景色が常に変わることですね。それに合わせて、応援してくれる人たちの表情も次々に変わっていく。移り気な自分の性格からすると、走っていて非常に楽しい大会です。
浅草の街並みも、大会を重ねるごとにどんどんきれいになっていったなと感じています。また、多くの人が写真を撮ってソーシャルメディアで街の様子を発信するようになり、社会のデジタル化によって浅草の知名度も上がり、ランナーの応援もしやすくなりました。そのあたりは第1回の頃から大きく変わりましたね。
また、東京マラソン当日は応援の人も多く、浅草全体がとても盛り上がります。これは決して良い面ばかりではなく、時には様々な課題もありますが、いずれにせよ東京マラソンによって浅草の街は活性化していると感じています。
「東京がきれいになる日。」大会前日に浅草で開催されるプロギングイベント

東京マラソン2025 プロギングイベント時の様子
――2024年から始まったプロギングイベントについて、俥夫の皆さんが案内役として参加している背景を教えてください。
梶原 最初に東京マラソン財団さんからお話をいただいた時、私たちが目指しているものとの親和性を強く感じました。実は私たち俥夫は毎朝、浅草の街のごみ拾いをしてから仕事を始めています。街は働く場所でもありますので感謝の気持ちも込めて、そしてお客さまから見た街の風景がきれいであってほしいという思いも込めて、ごみを拾い活動を行っています。
また、プロギングイベントには、特に海外の方々に向けた「発信」という意味もあると思いました。日本では、ごみはその場に捨てず、持ち帰るか所定の場所で捨てるという文化がありますよね。そうした日本人の当たり前のマナーを伝えられるイベントだと感じました。
俥夫衣装を着て日本の文化を継承している立場として、そうした発信に貢献したいという思いから、協力させていただいています。
――ランナーの皆さんが、東京マラソン開催への感謝を「街をきれいにする」形で表現する意義についてはどう感じていますか?
梶原 ごみ拾いは、通常その土地の人たちが行うことが多いと思います。でも、ランナーの皆さんが見知らぬ土地でごみを拾うことで、その地域と触れ合い、一体感を感じてもらえるのではないでしょうか。
西山 プロギングは本当に良いイベントだと思います。外国の方々から「日本の街はきれいですね」と言われることが多いですが、やっぱりごみは出るんですよね。だからこそ、ごみを拾う姿は心に響きますし、「街をきれいにしよう」という意識が自然と広がっていくのだと思います。
梶原 東京マラソン2026前日の2月28日(土)に開催されるプロギングイベントにも協力させていただきます。今年も多くのランナーの皆さんとの交流を楽しみにしています。*3
これからも変わらない浅草のおもてなしのDNA

――東京マラソンが2007年から継続して開催され、これからも歴史を重ねていくことは、浅草にとってどのような意味を持つと考えていますか?
梶原 どんなイベントもそうですが、東京マラソンもこれまで順風満帆なことばかりでなく、様々なハードルを乗り越え、回を重ねるごとに成長してきイベントだと思います。
その中で浅草の街として一貫して続いていくのは、「おもてなし」のDNAではないでしょうか。走るランナーや応援に来る皆さんに喜んでいただく気持ちは、これからも受け継がれていくと思います。
西山 東京マラソンが唯一無二なのは、海外から多くの人が集まり、ひとつになれるところです。日本の良さを発信する機会にもなりますし、走る側、応援する側、両方の立場でその意義を感じています。浅草や東京にとどまらず、日本全体にとっても意義のあるイベントとして、これからも関わっていきたいですね。また、世代が移り変わっても、それぞれの形で関われますので、文化継承という面においても大きな意義のあるイベントだなと思っています。
――それでは最後に、これから東京マラソンを走るランナー、浅草に来る皆さんへメッセージをお願いします。
梶原 浅草の街は、いつでも皆さんを笑顔でお待ちしています。いい汗をかきに来てください。
西山 とにかく楽しんでください。浅草のど真ん中を走ることも楽しみ、東京マラソン全体を味わい、ぜひ「ひとつ」になってください。
*1 東京マラソンフレンドシップラン2026についてはこちら
挿入URL https://www.marathon.tokyo/events/friendshiprun/
*2 東京マランニングフェスタについてはこちら
挿入URLhttps://www.marathon.tokyo/events/running-festa/
*3 東京マラソン2026 プロギングイベントについてはこちら
挿入URL https://tm2026plogging.peatix.com