インタビューリレー
東京マラソンを通じて生まれたつながりのストーリー
東京を夢見ていた息子の思い出を偲ぶ旅 母親と息子のつながりのストーリー

「東京マラソンを通じて生まれた“人と人のつながり”のストーリー」をテーマにお届けするインタビューリレー 2nd Run。
今回は、日本へ行くことが叶わなかった息子さんの夢と思い出を偲ぶために、東京マラソンを走りたいと願うKyanjaさんのストーリーを紹介します。
東京は末の息子が憧れていた夢の入り口
1966年、2歳の幼児だった私は、神戸港に入港する船に乗っていました。韓国生まれの私は、家族と共に地球の裏側、ブラジルでの新生活へと移住する途中でした。日本は、旅の続きの前にほんの数時間だけ陸地に降り立った、短い寄港地でした。その時の記憶は、鮮明な思い出としてではなく、黄ばんだ写真と、母が語ってくれた港での短い滞在の物語として残っています。それらは、私が触れたことはあっても、真に知ることのできなかった国、日本への唯一の窓となりました。
私がマラソンを始めたのは50代半ばの頃です。2019年には、初めてのアボット・ワールドマラソンメジャーズであるベルリンマラソンを完走しました。想像もしていなかったほど、生きている実感がありました。見知らぬ人々の声援、街のエネルギー、そして自分よりも大きな何かの一部であるという感覚。
しかし、すべてが止まりました。
末の息子が癌と診断されたのです。その後の年月は、レースやフィニッシュラインとは無縁でした。彼は日本の奥深い伝統を紹介する旅行チャンネルを見るのが大好きでした。静かな温泉、伝統的な朝食、そしていつか見てみたいと夢見ていた美しい街並み。東京はまさにその夢への入り口、彼の旅の出発点となるはずでした。彼をそこへ連れて行けるなら、どんなことでもしたでしょう。彼と一緒に飛行機から降り、画面を通して愛した国へ足を踏み入れたかった。しかし、それは叶いませんでした。
叶わなかったのです。
彼は2024年に亡くなりました。
東京を走ることで、彼の思い出が私の中に生き続ける
2025年、私はランニングを再開しました。悲しみが癒えたからではありません。彼を偲ぶ必要があったからです。つらくても前に進む必要があったからです。シカゴマラソンを走り、今年の4月にはボストンマラソン、11月にはニューヨークシティマラソンを走ります。
そして今、私は東京マラソンに向けて準備を進めています。
東京マラソンの大会コンセプトは「東京がひとつになる日。」です。私にとって、その言葉はそれ以上の意味を持つでしょう。それは、私の家族の物語の端に位置する場所、私が幼い頃に通り過ぎた国、そして息子が夢見た国への帰還なのです。東京を走ることで、彼の思い出が私の中に生き続けるでしょう。渋谷のあの伝説的なスクランブル交差点の近くを通る。息子と私が一緒に見たアニメ『ブルーピリオド』で、東京で夢を追いかける若い芸術家を描いたあの交差点です。彼が遠くから愛した街並みを。彼が知りたいと願った街を。
彼がそこにいることはできないと分かっています。でも、ある意味では、彼はそこにいる。一歩一歩、息遣いの一つ一つに。
1966年に日本を訪れた少女は、数十年後、乗客としてではなく、ランナーとして戻ってくるとは想像もしていませんでした。去るのではなく、自ら進んで到着する。旅に出ることのできなかった息子の愛を胸に。
私にとって東京は、喪失と愛と動きが交わる場所。私は自分のためだけでなく、彼のためにも走ります。

愛とつながりは喪失によって終わらない、形を変えるだけ
息子が病気になる前は、マラソンは主に個人的な目標達成とSix Star Finisherを目指すものでした。生きている実感を得て、自分の限界に挑戦するための手段だったのです。しかし、息子の思い出と日本への夢とのつながりが、私のランニングを完全に変えました。人生は今この瞬間にあること、そして夢を先延ばしにしてはいけないことを、身をもって学びました。
だからこそ、私は文字通り自分の夢を追い求めて走っているのです。個人的な達成のために走る人から、息子の思い出を胸にフィニッシュラインを越える母親へと変わりました。喪失の痛みを、愛と前進へと変える方法を教えてくれました。そして、走るたびに息子との絆が続いていることを実感させてくれました。
私が伝えたい一番大切なメッセージは、愛とつながりは喪失によって終わるのではなく、形を変えるだけだということです。
人生は、時間というものがどれほど儚いものか、そして夢を先延ばしにしてはいけないことを、最もつらい形で教えてくれました。
私がこの物語を通して伝えたいことは「適切な時」を待つのではなく、自分にとって最も大切なものを自ら追い求めて走り出しませんか、という励ましです。悲しみは重荷になることもありますが、もし私たちがそう望むなら、それを前進の原動力に変えることができるのです。
失った人々の夢を心に抱き続ける限り、決して彼らは本当にいなくなることはありません。私の旅がそのことを多くの人に気づかせてくれることを願っています。マラソンは、喜び、喪失、そして前進し続ける勇気によって、私たちは皆つながっているということを美しく思い出させてくれるものです。