インタビューリレー
東京マラソンを通じて生まれたつながりのストーリー
「チャリティとレガシーがつなぐ、未来への絆」〜東京マラソンチャリティとスポーツレガシー事業の融合から描く“つながり”の物語〜

「東京マラソンを通じて生まれた“人と人のつながり”のストーリー」をテーマにお届けするインタビューリレー 2nd RUN。
今回は東京マラソン財団社会協働事業本部チャリティ事業部長の中村薫、日本陸上競技連盟 理事などを務める室伏由佳さん(順天堂大学スポーツ健康科学部)に、東京マラソン財団が社会貢献のひとつとして取り組むスポーツレガシー事業と支援先の一つであるダイヤモンドアスリートプログラムとの融合から生まれたつながりのストーリー。東京マラソン財団のチャリティ事業やダイヤモンドアスリートプログラム、そしてこれらを通じた将来の発展などについてお話を伺いました。
東京マラソンは走りながら社会貢献できる大会

――まず、お二人が現在担当されている役割なども含めた自己紹介からお願いします。
中村 東京マラソンにはチャリティランナーという仕組みがあり、チャリティランナーとしてエントリーすることができます。ご希望される方には10万円以上の寄付をしていただいております。条件に基づき選定した社会貢献に携わる寄付先の団体は、2026年の大会に向けては37団体39事業。事業計画に賛同していただけるチャリティランナーの募集をし、より多くの社会貢献事業に活用できる寄付を集めるのが今の私の仕事です。
一方で、東京マラソンは走るだけではなく、社会貢献をしながらランニングを楽しめる大会だということはなかなか知られていないです。社会貢献のハードルを少し下げて、スポーツをしながら社会貢献できる、自分が支援したいと思う活動をしている団体に寄付していくことができるということをどんどんアウトプットすること。そして、寄付金を集めるだけでなく、社会貢献事業として東京マラソンは多様な取り組みを行っていることを広く周知してことが今の私の大きなミッションです。
室伏 私は陸上競技の女子円盤投、ハンマー投の選手として24年間活動し、ハンマー投では2004年アテネオリンピック、また2005年・2007年の世界陸上にはそれぞれハンマー投と円盤投で出場しました。さらに、アジア大会では女子ハンマー投で銅メダルを獲得しました。現在は順天堂大学スポーツ健康科学部の先任准教授(※職位名)で教員として教育・研究に携わり、日本陸上競技連盟の理事も務めております。また、東京マラソン財団様のチャリティ事業を通じて多大なるサポートをいただいている「ダイヤモンドアスリートプログラム」のプログラムマネージャーを、第8期(2021―2022)から現在に至るまで担当しています。
プログラムマネージャーとしては、研修プログラムの内容を検討するだけでなく、認定選手の選考段階から関わり、陸連の強化部と一体になって、国際的に活躍できる人材の発掘・育成を推進する役割を担っています。
5年、10年先に世界へと飛び立つ選手――まさに第1期生の北口榛花選手(JAL)、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手(東レ)のように、海外に拠点を置きながら国内外で活躍し、引退後も広く社会で力を発揮できるような人材が育てていきたいという思いで実施している、特別な育成プログラムです。
このプログラムには複数のスポンサー企業の皆さまからご支援をいただいておりますが、東京マラソン財団様にはスポーツレガシー事業などを通じて大きなサポートをいただいています。そのおかげで、競技力だけでなく、人間力や国際性を備えた素晴らしいアスリートが育っています。
ロンドンマラソンは5万人のうち7割がチャリティランナー

――東京マラソンにおいて、社会貢献はどのような意味を持っているのでしょうか?
中村 社会的課題となっている少子高齢化、健康寿命の延伸などが進む中、ランニングやスポーツを通じて健康増進を図っていくことができるのではないか、スポーツをしながらでも社会的な問題を解決していけるのではないか。そうした機会やきっかけをしっかり伝えていくことが、東京マラソン財団として大会を通じてアピールできることではないかなと思っています。
東京マラソンは2007年に第1回大会を開催し、チャリティというシステムは2011年に始まりました。それから15年、だんだんと規模が大きくなり、2025大会では約3万8000人の出走ランナーのうち、5000人の定員でチャリティランナーを募っています。
室伏 チャリティランナーは5000人もいるのですね。驚きました。
中村 東京マラソン2026で集まったチャリティ金額は、過去最高となる約12億8,000万円に到達しましたが、5000人というチャリティランナーはメジャー大会の中ではまだ少なく、世界にはさらに高い水準でチャリティ文化が根づいている大会もあります。
ロンドンマラソンだと5万人のランナーのうちの7割近くがチャリティランナーとして出走、1大会で100億円以上の募金が集まり、1人あたりの平均寄付金額が約70万円とも言われています。
室伏 それはすごいですね、そこまでの寄付金額とは想像していませんでした!
中村 ただ、この寄付金をランナーがすべて負担しているわけではありません。
ロンドンでは、“ランナーを応援する気持ち”がチャリティ文化と深く結びついており、家族や友人、同僚など周囲の人々がクラウドファンディングのような形で寄付に参加。フルマラソンに挑むランナーに向けた「はなむけ」として寄付を贈るのが、カルチャーとして根付いているようです。
室伏 そういう習慣は、日本にはあまりないかもしれませんね。
中村 はい。ランナーを応援する気持ちを持ち寄り寄付をする。抽選に当たったランナーがみんなの代表として走る。そうしたことがこれからの日本でも起きていけばいいなと思っています。
室伏 そういう考え方って、すごく素敵だなと思います。自分は走れなくても「頼んだぞ」みたいな感じで大会を通じて、あるいは身近な誰かを通じて社会貢献ができますよね。
私の周りでもマラソンを好きな友人たちが東京マラソンの「抽選に当たった!」「外れた……」と一喜一憂しているのですが、そのうちの一人でも当選し大会に参加できることとなった時の周囲の盛り上がりってすごいんです(笑)。だから、東京マラソンを走る人の周囲への影響は間違いなくあるというのは確信していたのですが、これをチャリティにつなげられればスノーボール方式ですごく大きくなっていく可能性とポジティブな効果があるなと思いました。
期待の高いダイヤモンドの原石を一緒に磨く気持ちで

提供:フォートキシモト/日本陸連
2025年12月1日に開催された第12期ダイヤモンドアスリート・ダイヤモンドアスリートNextageの認定式の様子
――では、東京マラソン財団のスポーツレガシー事業とはどういったものなのでしょうか?
中村 スポーツレガシー事業はスポーツを軸として募った寄付金ですので「スポーツの夢」、「スポーツの礎」、「スポーツの広がり」、「スポーツの力」、この4つのテーマに基づいてスポーツを起点としたレガシーを遺していこうという活動になります。その中の寄付先の一つがダイヤモンドアスリートプログラム。第1期生の2015年から支援が始まりました。
室伏 ダイヤモンドアスリートプログラムは、日本陸上競技連盟が将来の国際大会での活躍を見据えて実施している、次世代アスリートの強化育成プロジェクトです。単に競技力を高めるだけではなく、国際社会で活躍できる人間性と視野を備えた国際人を中長期的に育成することを目的としています。
このプログラムでは、世界で戦うポテンシャルを秘めた、いわばダイヤモンドの原石ともいえる選手を選考し個々の特性に合わせた育成プランを提供しています。競技力の向上はもちろん、語学、リーダーシップ、国際理解など、多面的な成長を支える特別な取り組みが用意されています。
また、ダイヤモンドアスリートには、国際人としての素養を磨く機会が毎年設けられており、東京マラソン財団様のご支援のもと、リーダーシッププログラムなどの教育プログラムも実施しています。競技力の向上とは異なる観点から、対面研修や英会話レッスン、サポート企業との活動参加、栄養・海外遠征のサポートに加えて、スポーツ法やスポーツ紛争への理解、金融リテラシー、メディア対応など、国際的に活躍するために必要な多様なプログラムも提供しています。
中村 メディア研修はすごく大切ですよね。
室伏 はい。ミックスゾーンでの限られた短い時間の中で、自分がどう語るかは、普段から訓練していないとすぐには言葉が出てきません。サニブラウン選手は、2023年オレゴン世界陸上で自身3度目の9秒台を出して準決勝に進出しましたが、そのレース後のミックスゾーンで「歴史をつくりにきている」「歴史を変えたい」と語りました。あの言葉は本当に印象的でした。選手がカメラの前で語る言葉やエピソードは、その人を象徴するフレーズとして繰り返し放送されることがあります。こうした点でも、サニブラウン選手はさすがだな!と感じました。
また、選手のコメントのなかで、どの部分が切り取られて放送されるのかは、メディア研修において専門家の視点からレクチャーを受ける機会があります。自分の強みや想いを瞬発的に言葉にできる力はとても重要です。こうした部分も、メディア研修の中で実演しながら学んでいます。見ている方、聞いている方が、選手の言葉から喜びや勇気をもらえることがありますよね。これも、アスリートができるスポーツの価値を体現する力の一つだと思います。

提供:フォートキシモト/日本陸連
第12期ダイヤモンドアスリート・ダイヤモンドアスリートNextage 第1回リーダーシップ研修には第1期生のサニブラウン・アブデル・ハキーム選手、JAAFアスリート委員会委員長の戸邉直人氏も講師として参加。
選手たちはスポーツと社会貢献についても考え、発表を行なった。
中村 サニブラウン選手はダイヤモンドアスリートプログラムでの育成の成果でもあるでしょうし、アメリカに渡って随分と印象が変わりましたよね。競技面はもとより、意識や視野に広がりを感じます。素晴らしいです。
室伏 おっしゃるとおりです。支援のおかげで、ダイヤモンドアスリートプログラムの認定機関中や修了後に世界選手権やオリンピックに出場して入賞したり、メダルを獲得したりするアスリートも出ています。また、北口選手、サニブラウン選手らの修了生で現在も活躍するトップアスリートの存在は、現役のダイヤモンドアスリートにとって大きな指標となっていて、強い意欲をもって、キラキラした目でプログラムを受講してくれていますね。また、寄付やサポートをしてくださる皆さまにも「支援して良かった」と思っていただけるように、これからもプログラムを通じて成長を丁寧に涵養していきたいと考えています。
中村 寄付者の人たちの中から抽選で数人をダイヤモンドアスリート認定式に招待していただいていますが、東京マラソンで集まった寄付の一部が支援されていることをアスリートの皆さんにも感じてほしいですし、寄付した人にとっては自分が応援する選手と直接交流できる嬉しさがありますよね。
室伏 ありがとうございます。アスリートの活躍の背景には、多くの方々からの支援があるということを本人たちが理解しているからこそ、より深い感謝の気持ちが生まれ、つらい時にも支えられて勇気をもらって前に進む力になるのではないかと思います。
期待値の高いダイヤモンドの原石たちを、東京マラソンを走ってくださる方や、寄付で応援してくださる方々と一緒になって磨いていくような気持ちで、ぜひこれからも支えていただければ本当に嬉しいですね。いわば、“推し活”のような感覚で(笑)。
すぐに結果が出る取り組みではありませんが、5年、10年と長い時間をかけて選手たちが成長し、日本だけではなく世界でも注目されるリーダーへと育っていくようなアスリートを輩出できるよう、今後も取り組んでいきたいと思っています。
みんながチャリティや社会貢献の機会に触れられる大会に

――チャリティ事業として、これまでの成果や寄付金額の推移、社会的な反響についてはどのように考えていますか?
中村 東京マラソンの全体の価値向上と並行してチャリティという概念の浸透や寄付金額も伸びていくのだろうなと思っています。東京マラソン財団としても、東京マラソンの価値がどんどん上がるような環境を担保しながら、チャリティ文化を醸成していきたいですね。
そして、チャリティランナーというものがあること、また、東京マラソンの先にはチャリティをはじめとした社会貢献があることをもっと多くの人に知ってもらいたいです。例えば、ダイヤモンドアスリートプログラムに関して発信しているSNSの投稿に「いいね」をして拡散することも社会貢献のひとつだと思っています。寄付をしなくても社会貢献ができることを感じ取れたり、みんながチャリティや社会貢献の機会に触れられるような大会にしたい。その先頭を走るのがチャリティランナーという仕組みかなとも思っています。
社会に対して何ができるんだろうと考えられるアスリートの育成を

――それでは最後にそれぞれの立場から、2027年の20回記念大会を見据えて今後目指しているビジョンを教えてください。
中村 ダイヤモンドアスリートプログラムへは2015年からスポーツレガシー事業の一つの助成先として、分かりやすい形でトップアスリートの支援をしてきました。継続的に支援していくにあたって、若い選手たちの考え方も変わってきているでしょうし、寄付金の用途をもっと変化させてもいいのかなという思いもあります。
例えば、選手たちに社会貢献について考え、取り組む機会を提供するプログラムを構築するとか。選手たちも「自分たちにできる社会貢献って何?」ということを考え、行動することで競技力だけでなく、人間力の向上にもつながるのではないかと思っています。
室伏 ダイヤモンドアスリートプログラムに参加する選手たちは、多くの方々から支援を頂いているからこそ、自分も将来は誰かの力になりたいと考える選手も少なくありません。そうした視点を持てる人になってほしいという思いも、プログラムに込められています。
社会に対して何ができるのかを考えられるアスリートの育成については、今日いただいたお話から多くのヒントを得ました。今年のプログラムにもぜひ取り入れていきたいと思います。自分だからできる社会に向けた発信、小なことであっても誰かが喜ぶ行動を起こせるような人材育成は、今後ますます重要になると感じました。本当に良いヒントと宿題をいただきました。
ダイヤモンドアスリートに認定されている選手たちは、まだまだ国際的に活躍する前の原石ではありますが、今後はもっと積極的に自己アピールをし、「自分はこういうことができます」「こうした場面で役に立てます」と、自発的に発信できるようなことが必要だと思います。
社会に貢献できるアスリートが育って行くよう、日本陸連としても引き続きプログラムを充実させてまいりますので、これからもぜひとも温かいご支援をよろしくお願いいたします。
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