インタビューリレー
東京マラソンを通じて生まれたつながりのストーリー
「支え合うことでつながる力」— 東京マラソンの現場で育まれた、ボランティア同士の絆 —

「東京マラソンを通じて生まれた“人と人のつながり”のストーリー」をテーマにお届けするインタビューリレー 2nd RUN。
今回は東京マラソン財団オフシャルボランティアクラブVOLUNTAINER事業担当としてボランティア育成に携わる東京マラソン財団社会協働事業本部ボランティア事業部の沖武、2014年から東京マラソンのボランティアに参加して現在はリーダーサポートとして活躍している赤澤俊祐さんに、東京マラソンのボランティア活動で生まれたつながりのストーリーをお伺いしました。
一人で参加した初めてのボランティア「とにかく楽しかった」

――はじめに東京マラソンにおけるボランティアの役割、仕組みについて教えてください。――

沖 東京マラソンのボランティアは「ボランティアメンバー」「ボランティアリーダー」「リーダーサポート」の3層に分かれています。その中でランナーに関わるのがメンバー、メンバーをまとめるのがリーダー、リーダーたちをまとめ、運営スタッフとのかけ橋となるのがリーダーサポートです。大会当日はスタート地点で手荷物を預かってランナーを案内し、レースの中では給水やコース管理、さらにフィニッシュ地点では完走メダルを渡し、手荷物を返却するなどしています。また、ランナー受付ではアスリートビブスをランナーの皆さんに渡したりしていますね。これがボランティアの主な活動になります。
赤澤 僕が最初にボランティアに参加したのは2014年の大会です。大学1年生の時でした。知り合いが東京マラソンに出場するということで、僕も何か関わりたいなと思ったのですが、走るのは無理!と思っていました。そんな時にボランティアというものがあると聞いて、それで始めたのがきっかけです。不純な理由かもしれませんが、学生でしたので、就職活動で有利になるかなと思ったのもありました。誰も知り合いがいない中、一人でボランティアに飛び込みました。
沖 一人で参加することは不安には思いませんでしたか?
赤澤 それは思いました。それまでボランティアをしたことがなくて、これが初めての経験でしたし、当日に現場に行ってみると人がたくさんいて、今日1日どうなるんだろう?と。でも、とにかく楽しかったんです。初めて担当した現場のリーダーさんが「誰でもウェルカム、楽しもう!」という雰囲気の人で、今でも僕のことを息子みたいに接してくれるんです。それ以来、東京マラソンのボランティアに毎年参加するようになりました。やっぱり、東京マラソンって年に1回のお祭りなんですよ。終わった後の高揚感も含めて中毒性といいますか(笑)、また行きたくなるんですよね。
――お二人の最初の出会いはどのような形だったのでしょうか?
沖 5年前のVOLUNTAINERリーダーサポート研修兼選考の場が最初だったと思うのですが、赤澤さんはこの研修兼選考の場をどのように思っていましたか?
赤澤 僕としてはVOLUNTAINERリーダーサポートに登録されるための選考で頭がいっぱいでしたね。でも、レクチャーや講義では改めて勉強になることがたくさんありました。研修が始まるまでは選考の場、終わった後は選考半分、勉強半分の場だったなと思いました。
沖 まさにその通りで、リーダーがリーダーサポートになるために半日ほどかけて講義とワークを実施し、チームをまとめるために必要な模擬体験を会議室の中でやっていくのがリーダーサポート研修兼選考です。赤澤さんは当時、とにかく若かったですし、真面目。こんな若者が世の中にいるんだ!と(笑)。社会人5、6年目だともっと他の娯楽を楽しんでもいいはずなのに、スポーツボランティアのさらなるスキルアップを目指すなんて本当にすごいなと思いましたね。
赤澤 ありがとうございます(笑)。
運営側とボランティアは互いに学び合い、高め合う関係

――東京マラソンのボランティア活動を通じて、赤澤さん自身の中で何か変化を感じることはありましたか?
赤澤 自分の中で一番変わったなと思うのはリーダーシップです。前に出て何かを進行するのが全く苦ではなくなりました。また、最初は楽しいからという理由で続けていたのですが、社会人になってみると、この先管理職などに就くことを考えると、仕事でもリーダー、リーダーサポートで得た経験が生きてくるだろうなとイメージできるようになってきました。
沖 コミュニケーションの面では、はじめましての人たちとは何を話すんですか?僕はすごく苦手なんですよね。
赤澤 最初の頃はマラソンのことも全く分からなかったので、ルールとか、どんな大会があるのかとか、大会当日はどんな感じで活動すればいいのか話しましたね。リーダー、リーダーサポートになってからは「楽しもう!」「やるぞ!」みたいな話をしています(笑)。
沖 えぇ~、いつからそんな熱い人になったの?
赤澤 いえいえ(笑)。僕はボランティアを始めて12年になるのですが、今では自分よりも若い世代の人たちもたくさん入ってきていますし、前回の東京マラソンでは自分たちのブロックに学生チームもいましたので、今までやってきたことを伝えたり、「普段は何してるの?」とか何気ない日常会話でコミュニケーションを取っていますね。初対面の人でもちょっとしたことから会話するきっかけを見つけることができるようになってきたと思います。
沖 我々の立場からもボランティアの皆さんから学ぶことはたくさんありますね。赤澤さんのようなボランティアリーダー、リーダーサポートをやってくれる人たちは常日頃から様々な大会で活動をしていて、「あそこでやっていたこれが良かった」「こういう考えが素晴らしかった」とか吸収して、フィードバックしてくれることも参考になります。また、そうした志高い姿から、僕たちもその学習意欲に負けてはいけないなと思わされますね。“彼らに恥じない我々”を作るということをすごく考えています。皆さんが100%で来てくれているのに、こちらも100%以上で返さないと、もう来年は来てくれないかもしれない。
赤澤 大丈夫ですか、僕たちがプレッシャーになっていませんか?
沖 なっていますよ(笑)。だから胃がキリキリと痛い……というのは冗談ですけど、意欲の高い人たちに向けて僕たちも意欲を高くしないと申し訳ない。そして、その意欲の高さって、この東京マラソンの20年で培われてきた過去のボランティアセンターの人たちの意識を引き継いで、赤澤さんのような新しい世代に継承されてきたものだと思うんです。その中で僕たちだけが置いて行かれるわけにはいかない、ボランティアの文化を我々の代で絶やすわけにはいかないと、そんなことを思っていますね。
ボランティアの明るさがもたらす社会への好影響

――東京マラソンのボランティアならではの面白さ、魅力はどこに感じていますか?
赤澤 やっぱり、一番は「人」だと思います。第1回目の東京マラソンからボランティアをやっていますというベテランから、最近リーダー、リーダーサポートになった人まで、色々な経験・立場の方たちから色々なお話を聞くことができて面白いです。それがすごく良い勉強にもなっているので、東京マラソンのボランティアの魅力は「人」だと思いますね。僕はそんな先輩たちの背中を追いかけてきたのですが、この12年で学んだことは本当に多かったです。言い方は良くないかもしれませんが、リーダーやリーダーサポートの人たちって想定外のことを楽しんでいるんですよ。
沖 あぁ、確かにそうかもしれないですね。何か起きないかなとソワソワしている面はあるかもしれない(笑)。
赤澤 その感覚って、僕には今までなかったのですが、それくらいのポジティブさ、明るさ、何でも楽しみに変える力はすごいなと思います。普段の仕事ではつらいことも多いですが、その発想の転換、考え方は自分の中でも影響は大きかったですね。
――東京マラソンのボランティア、また組織であるVOLUNTAINERが東京の街や社会に与えている影響はどのようなものがあると考えていますか?
沖 赤澤さんのようなボランティアの人たちがいてくれていたら、もっと社会が明るくなるんじゃないかなと思う時がありますね。 マラソンって、その街で生活している人たちにとっては迷惑に思う時もあるんじゃないかなと思うんです。でも、ボランティアの人たちが楽しそうに、良い印象を持って活動してくれているからこそ、周りの人たちも共感してくれて、20回近く大会を開催できているんだろうなと思いますね。
子どもたちが参加する機会をもっと増やしたい

――今後のVOLUNTAINERに関して、何か思い描いているものはありますか?
沖 今、東京マラソンでは一部のエリアで、小・中学生とその保護者の方がボランティアとして参加できる仕組みがあります。例えば、給水所でランナーにコップを渡したり、ハイタッチをする場面などがありますが、子どもたちにとっては、そうした行動って少し恥ずかしくて、勇気がいることだと思うんです。でも、隣で大人のボランティアが楽しそうに盛り上げているのを見ると、自分もやってみようかなと手を伸ばして、実際にランナーとハイタッチできたときには、とても嬉しい体験になるはずです。
子どもたちの最初の一歩を、ボランティアの皆さんが優しく後押ししてくれていることは、きっと将来のボランティア活動へのきっかけにつながるのではないかと思っています。地域のボランティア活動でも、そうした経験を持った子どもたちが率先して行動してくれるようになるかもしれない。そんな広がりを最近意識するようになりました。
赤澤 東京マラソンが、子どもたち自身が主体的に関われる場所や機会として社会と触れるきっかけになることは素晴らしいですね。 子どもたちがいると、自然と周囲も明るくなって、現場の雰囲気が変わりますよね。 彼らが一生懸命に活動する姿は、他のボランティアやランナーにとってもモチベーションになります。
沖 そうなんです。ランナーの立場としても、子どもたちが応援してくれると、どんなに疲れていても手を振ろうと思えるし、頑張って走れる。だからこそ、子どもたちが関われる場を大会全体の中でさらに増やして、彼らがやがて高校生、大学生になったときに、今度はリーダーやリーダーサポートとして戻ってきてくれたら、すごく素敵な循環になるなと感じています。
質問に答えます「ボランティアって、ぶっちゃけどうなの?」

――若い世代といえば、「ボランティアって、ぶっちゃけどうなの?」という質問が東京マラソン財団にたくさん届いているようですね。
沖 そうなんです。それらの質問からいくつかピックアップして赤澤さんに色々聞きたいんですよ。まず気になるのは「ボランティア活動は就職活動に有利になりますか?」。これ、本当ですか?
赤澤 人によるものだと思います。外資の会社だとボランティア経験を書く欄があるという話ですが、国内の会社だとどうなんですかね。僕の転職経験にはなりますが、履歴書に「リーダー経験あり」としっかり書かせてもらいました。(笑)、人事担当者の目にちょっと止まったり、自己PRの一つにはなったかもしれないですよね。もちろんそれが合否に直接は関係しないと思いますが、面接官がもしかしたらランナーかもしれないですし、何か会話のきっかけになる可能性はありますよね。
沖 なるほど。では次、「初めて参加しようと思ったけど、不安で行きたくなくなってきた……。初めての参加でも浮きませんか?」という人の背中を押すには?
赤澤 初めて参加する人も多いので全然浮きません(笑)。むしろウェルカムです。とりあえず集合場所に来ましょう!そうすれば僕たちが全力で楽しませますから、と言いたいです。リーダーが最初に「初めてですか?」と声をかけることが多いと思います。「初めてです」と言っていただければ手厚くフォローしてくれます。また、周りの経験のあるメンバーさんも色々と楽しみ方を教えてくれるので、初めてでも安心してください。
沖 「最近、東京マラソンでは外国人のランナーが増えてきましたが、外国語を話せた方がいいですか?」という質問です。
赤澤 外国語が全然話せなくても大丈夫です。でも、少しでも話せた方が楽しさは倍増します。英語だったら中学生レベルでOK。単語レベルでも大丈夫です。
沖 ぶっちゃけQ&Aは次が最後です。「高校、大学時代はコロナ禍だったので、リアルな人付き合いに不安があります。年齢が上の方とのコミュニケーションにも心配がありますが、大丈夫でしょうか?」。
赤澤 むしろそういう若い人たちにこそボランティアに来てほしいですね。実際に対面で会うと変わると思うんですよ。リアルな接点が少なかったからといって、ネガティブに思う必要はないと思います。若い人は目立つから、僕だったらガンガン話しかけちゃいます(笑)。
沖 うん、それはそうですね。
赤澤 新しい人を歓迎する度量がある人たちの集団なので、むしろ安心して会いに来てほしいなと思いますね。また、たまにボランティアの人たちに職業を聞くと、ビックリするような立場の人がいるんですよ。同年代の友達付き合いの中では出会わないような方との出会いだったり、人脈の面でも色々なつながりができると思います。
沖 確かに、学生時代は上下3、4歳くらいまでの人たちとしか付き合いがないと思いますが、社会に出たらいきなり色々な世代の人と話さなければいけなくなる。ボランティア活動は社会で必要のコミュニケーションスキル習得の場でもありますね。この点は学生に感じて欲しいメリットですね。
東京マラソンは年に1回のお祭り! 気軽に遊びに来て

――それでは最後に、これからボランティアをやってみたいなと思っている人たちに向けてメッセージをお願いします。
赤澤 とにかく1回、参加してほしいなと思っています。知らないことばかりで不思議な世界が広がっていると思いますが、大きな大会に関わっている高揚感をすごく感じられると思いますし、東京の大動脈を舞台にした大会に関わったという自信がつくと思いますので、ぜひ気軽に遊びに来てください!
沖 ボランティアの意義や価値はおそらく、周りから見たら分からないものなんだと思います。キャップやウェアを着て、ただ立っているだけ、ただ水を配っているだけに見えるかもしれません。でも、ランナー、運営側としてはその行為だけでもすごく尊い。もし水を渡してくれる人がいなかったら倒れてしまうランナーがいて、声を掛けてくれなかったら42kmをただ走ることになる人もいると思います。でも、そこでボランティアが一つのアクションをしてくれたおかげで、ただ走っているだけ、ただの何かだったものがマラソン大会として成立する。これがきっとボランティアの大きな役割なんだろうなと、今日の赤澤さんとの対話で思いました。そうしたことが皆さんに伝わればいいなと思います。
赤澤 確かに、走りながら「ありがとう!」と言ってくれるランナーさんが多くて、すごく感動します。それも含めて年に1回のお祭りなので、一人でも多くの方にこの感情を味わってほしいです。アルバイトとも仕事とも違う、想像以上の体験、経験があると思っています。
*東京マラソン財団オフィシャルボランティアクラブ VOLUNTAINER について詳しく知りたい方はこちら
“a VOLUNTEER is an ENTERTAINER” さあ、仲間と一緒に踏み出そう!
もっと先へ!!
東京から世界へ!!!
